ふたつの背中を抱きしめた
―――最初に彼女がそれを飲んでるのを見かけたのは、肌寒い梅雨の日だったと思う。
スタッフルームでの事務作業中、大抵のスタッフは給湯室に常備してあるコーヒーや緑茶を飲んでいるなか
彼女は持参してきた水筒から薄く色づいた温かい飲み物をカップに移して飲んでいた。
ほのかに斜め向かいの俺の席まで不思議な香りが漂ってくる。
初めて嗅ぐその香りに、ふと顔を上げると彼女と目が合った。
俺はその頃はもうこの女(ひと)の事が好きだったから、彼女のことが何でも知りたくて。
「…ソレ、なに飲んでるんだ?」
ぶっきらぼうに彼女に話し掛けてみた。