ふたつの背中を抱きしめた
ただただ目を丸くする私に、柊くんは鋏を動かす手を止めないままボソリと呟いた。
「こっちの方が面白いだろ。」
……えー…?
そんな理由、なの?
ピンクと緑の色紙で華々しく彩られた満開の桜。
そこに、
何故だか存在する同じくピンクと緑の車。
……確かに、面白いっちゃ面白いよね。イミフで。
でもそんなシュールな笑い、多分ここでは誰も求めてないでしょ。
他のスタッフに怒られちゃうんじゃないかなぁ。勝手なコトして!って。
どうしていいものやら立ち尽くしていた私は、色紙を切り続ける柊くんの机に置かれてる物にふと気が付いた。
それは…写真が沢山載っている車の絵本。
よく見ると色紙には鉛筆で薄く下書きがしてあり、その車の形に切り抜かれた色紙は
決して気まぐれなんかでは無く、とても丁寧に計画的に作られたコトが分かった。
…冗談や気まぐれで、フツウここまでしないよね。
なにか、理由があるんだ。きっと。
「じゃあ、私はもうちょっと桜作るから柊くんはもっと車作ってくれる?」
そう言って紙の束を半分もらった私を、今度は柊くんが目を丸くして見つめた。
「え、何?私も車作った方がいい?でも私、無機物作るの苦手なんだよね。」
たはは、と情けなく笑う私に柊くんは
「…あんたは桜でいいよ。」
と、素っ気なく呟くと再び視線を色紙に落として黙々と鋏を動かした。