ふたつの背中を抱きしめた
2人しかいないスタッフルームに、ジャキジャキと紙を切る音だけが響いてる。
私は柊くんの斜め向かいの自分の席で桜の花びらを作るコトに集中していた。
会話は無かったけれど作業に没頭していたので気にはならなかった。
一生懸命鋏を動かしていたので指が痛くなり手をプラプラさせてほぐしていると
柊くんがこちらを見ずに誰に宛てるとも無いような小さな声で喋りだした。
「…車が、好きなんだ…。」
突然喋りかけられて驚いたけれど、私はすかさずそれに答えた。
「柊くんが?車好きなの?」
「ちがう。昨日から入って来たチビが。」
「昨日…タクミくんだっけ。5歳の男の子だよね。」
「そうソイツ。」
「タクミくん、ご両親と離れた事がショックみたいであまり喋らないんだよね。昨日も夕方、泣いてた。」
「…タクミは、車の話ならするんだ。トミカいっぱい持ってたって、自慢するんだ。」
視線も上げずにそう言った柊くんを
私は作業の手を止めて、見つめた。
「だから…」
…だから、柊くんは
車を作ったんだ。
勝手なコトして、って怒られるのをきっと分かっていながら。
それでも、タクミくんのために。
「…桜より、こっちの方がタクミはきっと喜ぶ。」
そう呟いた柊くんの顔はやっぱり無表情に見えたけど
でも少しだけ、
少しだけ、嬉しそうに見えた。