ふたつの背中を抱きしめた
「それよりさ、真陽ちゃんが構うべきは柊くんより他にいるんじゃないの?」
リエさんはTシャツのしわをのばしながら言った。
その言葉に心当たりのある私はうーんとうなる。
5月に入ってからここの業務はうんと忙しくなってきた。
5月は対外活動の講演会や勉強会がさかんな時期でありNPOとして活動している以上それは非常に大切な業務になる。
園長やベテランの矢口さんがそれに駆け回るので、抜けた穴は残りのスタッフで埋めるコトになる。
この時期はボランティアさんの参加数も多いのは救われるけれど、それでも正規スタッフは目の回る忙しさだ。
一般企業なら軽く労働基準法に抵触しそうな毎日を、ここ最近は送っている。
そういうワケで、私は大事な大事な婚約者をこの数日間ほっぽらかしにしていたりする。
綜司さんとの愛の巣に帰っても私は最低限の家事をこなして睡眠をとるだけで精一杯だ。
それどころか疲れてる私を見兼ねて綜司さんは食事を作ってくれたり、
挙げ句の果てには持ち帰った仕事(それもリーフレットの折り込みなんて云う地味な仕事を!)手伝ってくれたりもした。
さすがにその時は、夜中に綜司さんと向かい合って黙々とリーフレットを折りながら
「ごめんね。せっかく2人の時間なのにこんなコトさせてごめんね。」
と申し訳なさで私はポロポロと涙を零した。
ちょっと疲れてたのもあったんだと思う。
でも。
もう半月ぐらい、綜司さんと触れ合っていない。
ベッドに入って5秒で爆睡してしまう日々が続いたと思ったら挙げ句の果てにコレである。
婚約してひと月。1番ラブラブな時期のはずなのに。
もし逆の立場だったらきっと凄く寂しい気持ちだったと思う。
そう考えると、私は綜司さんに申し訳なくて申し訳なくて涙が止まらなかった。