ふたつの背中を抱きしめた
「ユウキがタイチに言ったんだ。『お前は母ちゃんに捨てられたんだ。でも俺は違う。』って。」
「そっか、それでタイチくん手をあげちゃったんだ。」
私は柊くんと寝室に子供達の布団を敷きながら、さっきの顛末を話し合った。
「暴力は良くないけど、タイチくんもよっぽど傷付いたってコトだよね。」
「泣いてた、すごく。…でも、」
「うん、ユウキくんも不安でいっぱいなだけなんだよね。自分が、そうなんじゃないかって。だからその不安をタイチくんにぶつけちゃったんだよね、きっと。」
私はシーツの角を折り込みながら柊くんにそう話した。
柊くんは、相変わらず無愛想だけれど、仕事の…特に子供の話なら普通にしてくれるようになった。
けれどそれは、別に柊くんと親しくなったとかではなく
子供の面倒を見る上でこういった情報を共有するコトは不可欠なので当然と云うか。
柊くんにとっては業務連絡程度のものなんだと思う。
「じゃあ今日はユウキくんに添い寝しようかな。タイチくんともしてあげたいけど年齢的に嫌がるかなぁ。」
敷き終わった布団を軽くポンポンと馴染ませ、立ち上がりながら私は言った。
「今日、夜勤か?」
「そう、私とリエさん。柊くんは?これから帰るの?」
「帰る。明日バイトあるからな。」
「そっか。バイトもあるのにいつも遅くまでありがとね。お疲れさま。」
壁の時計はもうすぐ21時を指そうとしていた。
リエさんが子供達に歯磨きをさせているから、それが終われば低学年の子は就寝時間だ。
柊くんは寝室から出る時、挨拶の代わりに
「ユウキが寝たら、タイチにも添い寝してやれよ。嫌がんないよアイツ。」
そうアドバイスをくれて、やっぱり私の方を見ることもなく帰って行った。