ふたつの背中を抱きしめた
3.笑って欲しいと思った
その日は、暑い梅雨の晴れ間だった。
「また勝手なコトして!やめなさい!」
園庭に、矢口さんの怒り声が響く。
喚く矢口さんをチラリと不貞腐れた顔で見る柊くん。
その手には、勢いよく放水しているゴムホース。
そして、キャアキャアと嬉しそうにその水を浴びる子供達。
「あーあー、洋服のまんま水なんか浴びせちゃって、風邪ひいたらどうするの!?しかもこんな所でやるから足下泥だらけじゃない!」
ヒステリックな矢口さんの剣幕に、柊くんもしぶしぶ水を止める。
「暑いんだからいーじゃん。」
とブツブツ呟きながら。
「えーやめちゃうのー?」
「もっとやってー」
口々にねだるびしょ濡れの子供達を、他のボランティアさんと私でバスタオルで拭いてあげた。
「着替えた方がいいね。みんな、中に入ろう。」
私がそう言うと、ボランティアさん達がハーッと溜め息をついた。
「柊くんはまーた余計な仕事増やしてくれちゃって。」
「風邪でもひかせちゃったらどうするつもりなのかしら。」
相変わらず柊くんの評判はよろしくないようで。
「急いで着替えれば大丈夫ですよ!洗濯は私が休憩中にちょちょっとやっておきますから!」
ボランティアさん達の機嫌を損ねないよう、私は努めて明るく言って
「みんなー、着替えたらおやつにしよっか。冷たいジュースあるよー。」
そう子供達に呼び掛けながら園内に戻って行った。