ふたつの背中を抱きしめた
「櫻井さん、あがっていいわよ。」
壁に掛かった時計を見ながら、園長がそう言った。
いつもあがる時間より早かったけど、今日はもう交替のスタッフも来たし引き継ぎも伝えた。
なので私は遠慮なく「お疲れさまでーす。」と挨拶をしロッカールームへと向かった。
外はまだ夕焼けが沈みきっておらず、夜の青と夕陽の赤が交じり合った色をしていた。
いつも通りシルバーの愛車をカラカラと押しながら園門を出ると、いつだったかと同じようにリュックを背負った柊くんと鉢合わせした。
「柊くんも今帰り?」
「うん。あんたも?」
「そうだよ。今、子供少ないからサクッと帰れるよねー。」
「でもまたすぐ忙しくなるよ。夏祭りの準備がそろそろ始まるから。」
へぇ、柊くん詳しいね。
そう言おうとして私は慌てて出てきた言葉を飲み込んだ。
ボランティア1年目の柊くんが何故もうすぐ夏祭りがあるコトを知っているのか。
それは彼が昔、ここに通ってたから。
柊くんがまだ児童養護施設に居た頃、何回もここのお祭りに参加したから。
その話題に触れて良いのか分からない私は、かわりに
「忙しくなっても、子供達が喜んでくれるなら嬉しいよね。」
と応えた。