ふたつの背中を抱きしめた



--------------後悔した。




私の言葉を聞いた柊くんが、顔を歪ませたのを見て。




「ふざけんな…!」



柊くんが放ったその一言は、小さい声だったけれどとても強くて、彼の怒りを表わしていた。


憐れみと捉えられたんだろうか。
同情と捉えられたんだろうか。


柊くんは音をたてて椅子から立ち上がるとそのままスタッフルームを出ていってしまった。


私はその状況に、為す術もなく、取り繕う言葉もなく、ただ茫然と柊くんの背中を見ているしかなかった。



---小さい頃

傷を負った野良猫を、介抱しようと思った事があった。

しゃがみこんで手を伸ばし、強く警戒する猫がこちらへ来るのをジッと待つ。

猫は唸りながらも私に興味を示し鼻をヒクヒクさせながらゆっくり近付いてくる。

餌が欲しかったのかもしれない。
怪我を治して欲しかったのかもしれない。

警戒心を剥き出しにしながら、それでも猫は少しずつ近付いてくる。

あと少しで手が届きそうになり、焦れていた私は思い切ってその躰を掴もうとした。


その瞬間、
猫は、逃げた。


猛ダッシュで私の手の届かない所まで走っていき、一瞬だけ振り向いて逃げていった。

その瞳は

「ほらな、やっぱりお前も敵だった」

まるでそう言ってるように警戒色を強め

そして二度と振り向く事無く茂みの奥へと逃げ去っていってしまった。


幼い私は後悔した。

焦ったことに。
待てなかったことに。
乱暴に手を伸ばしたことに。

そして

結局は猫に触れたかっただけだと云う自分の中のエゴに気付かされて

私は、自分を恥じた。



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