ふたつの背中を抱きしめた
3.抱きしめる理由
その日の夜、綜司さんはいつにも増して優しかった。
私が、車で泣いた理由を上手く説明出来なかったからかもしれない。
「真陽、少し疲れてるんじゃない?」
綜司さんは時間の許す限り、私をその胸に抱き寄せ頭を撫でてくれた。
綜司さんがこんなに私を心配するのには、理由がある。
学生の頃、私は何回か過呼吸 正確には過換気症候群で倒れた事があるのを綜司さんは知っている。
自分では図太い方だと思っていたけど十代の頃はストレスを上手く逃す事が出来なくて過呼吸と云う形で表れてしまっていた。
大学に入ってからは一度しか起こらなかったけれど、目の前で発作を起こした私を綜司さんは死ぬ程心配した。
その頃は私ももう慣れていて倒れこむほどではなくペーパーバッグで対処したんだけれども。
それ以来、綜司さんは私のストレスに敏感だ。
私は綜司さんを心配させまいと口では「大丈夫だよ」と繰り返したけれど、
その広い胸の優しさがあまりに心地好くてたっぷりと甘えさせてもらった。