ふたつの背中を抱きしめた
「ねえ、真陽。寝ちゃった?」
「ん…まだ起きてるよ。」
私は綜司さんの腕枕の中で顔をあげて答えた。
電気を消した部屋で、カーテンから微かに零れる月明かりの中に綜司さんの顔がうっすらと見える。
月明かりに照らされる綜司さんは幻想的なほど美しくて、私はその存在が幻じゃないコトを確かめたくて手を伸ばす。
頬に触れた手を、綜司さんは優しく自分の手で包み、その指先にキスを落としてくれた。
うっとりと微笑む私を愛しそうに眺め、綜司さんが静かな声で話し始めた。
「真陽…仕事、辛くない?」
「え…どうして?」
「最近、ちょっと疲れてるみたいだからさ。ボンヤリしたり、よく眠れてなかったり。」
「そう…かな?」
最近。
柊くんの事ばかり、考えていた。
寝ている時さえも、幼い彼が誰かに殴られている夢を見て飛び起きる。
夢の中の彼は、何回も「助けて、助けて」と叫んでいた。
目が覚めて真っ暗なベッドの上で私は、それが夢だった事の安堵と
けれども過去の現実である哀しみに、どっと心を疲れさせた。
「心配かけてゴメン、でも大丈夫だよ。仕事は楽しいの。ただ、ちょっと頑張り過ぎちゃって疲れてたみたい。」
私は綜司さんを見つめながら言った。
これ以上心配を掛けないように笑顔を作りながら。
そんな私を、綜司さんはギュッと抱き締める。
「それならいいけど…。あまり無理はしないで。真陽は僕の奥さんになる大事な大事な人なんだから。」
「…うん…」
私は抱き締める綜司さんの腕に自分の手を重ねた。