ふたつの背中を抱きしめた
「子供は2人欲しいな。男の子と女の子。」
婚約が決まってから、綜司さんはよくそう言っていた。
「子供達と真陽と、4人でたくさん出掛けよう。まずはお弁当持ってピクニックかな。真陽のお弁当は美味しいからきっと子供達は喜ぶよ。」
本当に嬉しそうに、綜司さんは語った。そして、
「真陽、僕は子供達が慕ってくれるような父親になれるかなぁ。」
必ず最後に、私にそう聞いてきた。
「どうして?当たり前じゃない。綜司さんは誰から見たって素敵な人なんだから子供達の自慢のお父さんになれるに決まってるよ。」
私がそう答えると、綜司さんは微笑んで「ありがとう。」と言った。
けれど、その笑顔はどこか少しだけ寂しそうだったのが今も私は気になっている。
月曜日、
朝、目を覚ますとコーヒーとパンの焼けるいい匂いが寝室まで漂っていた。
慌てて飛び起きキッチンへ行くと、テーブルには既に美味しそうな朝食が並んでいた。
「おはよう真陽、よく眠れた?」
サイフォンからコーヒーを注ぎながら綜司さんが声をかけてきた。
「やだ、朝御飯作ってくれたの!?ゴメン!綜司さんも今日仕事でしょ!?」
私は大慌てで綜司さんと時計を見やった。
「大丈夫、まだ時間はたっぷりあるし。真陽が少しでもゆっくり眠れたらそれでいいんだよ。」
綜司さんのあまりの優しさに朝から涙腺が緩みそうになる。
「さ、冷めないうちに食べよう。」
そう促されて、私はコクンと頷いてから席に着いた。