ふたつの背中を抱きしめた
2.戻れない夏
----その日は、朝から暑くって。
昨日の豪雨が嘘のように空は渇いていて。
マンションから出た私は、まだ朝だと云うのに異常な陽射しの強さに顔をしかめた。
蜃気楼に揺れるアスファルトのように
私の運命も滑稽に歪んでいく。
そんな、朝だった。
ぬくもり園のスタッフルームに着くと、矢口さんが盛大な溜息をついていた。
「おはようございます…って、あれ?矢口さん、昨日夕勤でしたよね?」
「そうよ、昨日深夜に帰って今日は休みの予定だったのに。柊くんのドタキャンのせいで急遽日勤に変更よ!もう!」
矢口さんは不機嫌を露にして言った。
「柊くん…お休みですか…」
「しばらく休むって、園長にメールが来たらしいわよ。
まあ、彼は正規スタッフじゃないから出なくても文句は言えないんだけど、でもねえ。
1度引き受けたんだし、謝礼金だって出るんだから、もうちょっと責任感持ってくれてもいいのにね。」
矢口さんは不満いっぱいにそう言った。
間違いない。
間違いない。
私のせいだ。
そして。
このままだと柊くんは二度とここに来なくなる。
私は嫌な感じに自分の動悸が速くなるのが分かった。
「本当に困った子よねぇ。」
そう言った矢口さんに、私は苦笑いすら出来ずに黙って俯いた。