ふたつの背中を抱きしめた
心のどこかで、そんな予感はしていた。
きっと柊くんは私と会いたくなくて休むんじゃないかって。
でも、このまま放っとくと、柊くんはきっともうここへは来ない。
それだけはダメ。
せっかくの居場所を、私なんかのせいで失わないで。
どうかここへ通う事を、子供達に慕われる事を、辞めないで。
勤務を終えた私は、園長に教えてもらった柊くんの住所を書いたメモを片手に
自転車を押しながら知らない住宅街を彷徨っていた。
異常な暑さは夕方になっても続いていて、私は歩きながら額の汗を手の甲で拭った。
『お見舞いに行ってみようと思うんです』
そう言った私に、柊くんの欠勤を体調不良と受け取っていた園長は快く住所を教えてくれた。
少し心苦しく思いながら、私は教えられた住所を頼りに柊くんの住むアパートを探した。
「…ここだ…」
見付けた建物はこじんまりとした一人暮らし用のワンルームの集合住宅だった。
外階段から続く2階の1番奥にあるドアを見上げる。
そのドアの奥に柊くんがいるのだと思うと、今更ながら私の足は竦んだ。
ひとつ息を吐いて意を決すると、私は建物の陰に自転車を停めて
お見舞いの名目で買ってきたケーキの入った箱を持って、2階へと向かった。