ふたつの背中を抱きしめた


チャイムを押しても、音沙汰は無かった。


もう一度だけチャイムを押し、やはり音沙汰が無かったコトに諦めようと踵を返し階段を降りかけたところで、ガチャリとドアの開く音が聞こえた。


振り向くと、開いた扉から柊くんが出て来てこちらを見ていた。


「…柊くん…」


私は慌ててもう一度踵を返し、柊くんの部屋の前まで戻る。

柊くんはひたすら不機嫌な顔をしていた。


「…何してんだ、あんた。」

「何って…お見舞い…」


柊くんがあまりに強く睨むから、私は手に持っていたケーキの箱を差し出しながら俯いた。


「お見舞いって…別に病気じゃねーし。」

「そ、そうなの?なら、良かった。」

私は顔が上げられないまま笑顔を作った。


「…明日、来れるかなぁと思って。元気なら来れるよね?みんな、待ってるから!」

無責任なコトを言ってると、自分でも思う。

来られなくしたのは、私なのに。


「じゃあ、帰るね!せっかくだからコレ食べて!それじゃあ、また明日!」

終始顔を上げられないまま、私は手に持ったケーキの箱を柊くんに押し付けてその場を立ち去ろうとした。

早足で立ち去り、階段を降りようとしたところで、背後から柊くんの声が飛んできた。


「ちょっと待てよ」


おそるおそる振り向くと

「…せっかく来たんだから上がれば。お茶ぐらい入れてやるよ。」

柊くんは私の予想もしなかった台詞を言った。



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