ふたつの背中を抱きしめた
フローリングの小さなワンルームは、夏の西陽で紅く染まっていた。
変に、生活感の無い部屋だと思った。
家具や電化製品はあるけれど、なんと言うか、この部屋の主の趣向が見えて来ない部屋だった。
インテリアも、好きなカラーも、趣味や愛玩さえ見えてこない。
それは“安らぐため”の部屋ではなく、ただ単に“生きるため”の部屋に、私には見えた。
そしてそれは、柊くんの生きてきた空虚な歴史を表している様で、私はなんだか胸が騒ついた。
「適当に座って。お茶、暖かいのがいい?冷たいのがいい?」
ボンヤリと部屋を見ていた私は、柊くんの声にハッと我に返る。
「あ、じゃあ冷たいので…」
私はミニテーブルの前にゆっくりと腰をおろした。
柊くんはグラスに氷を浮かべた麦茶を2つ持って、私の向かいに座った。
「麦茶でいいか?って言ってもこれしか無いんだけど。うち、お客とか来ないから。」
「あ、全然構わないよ。どうもありがとう。」
「そうだ、さっきのケーキ開けてもいいか?一緒に食べよう。」
滅多に来ないお客さんに舞い上がってるのか、柊くんは珍しくはしゃいでるような気がした。
…さっきまでの不機嫌はなんだったんだろう。
むしろ、昨日のコト気にしてないんだろうか。
まさか、そんなワケはないと思うけど。
柊くんは、キッチンに立ってケーキの箱をいそいそと開けていた。