幸せの刻(とき)
私の足元でちょこっと座って居たピースが、
立ち上がると突然走り出した。
またピースが誰かの宝を探したのだろう。
私はピースに引きずられる形で走り続ける。
公園を抜け、交差点を横切り、小さな商店街を入り、1キロ位走った位でピースは立ち止まると
ワンワンと吠えた。
そこは白い大きな建物の前だった。
そう私の妻が入院している病院だった…。
激しくピースが吠え続け入り口近くに居た、車椅子の女性が振り返った。
「あら、ピース…とお父さん」

車椅子の女性は妻だった。
妻が振り返るとピースは吠えるのを止めて、いつもみたいに宝を探し終えた時のように、キラキラした瞳で私を見上げた。
「お父さんピースの散歩にここまでいらしたんですか」

妻の問い掛けに、叱られた子供みたいに頭をかきながら、私は慌てて答えた。

「ピースに引きずられたら…ここまで来てたらしい」

「ずいぶんと、引きずられたのね」

そう言うと妻が笑った。妻が笑うと、少し青ざめた顔に、朱が入り
若い頃の妻の笑顔がよみがえった。

ここ掘れワンワン。

宝を探したジジイは、

次には枯れ木に花を咲か
せて見せた。

年月は人の身体や頭をを老いさせる。
ただ変わらない事がある笑顔は、赤子でも老いた者でも同じなのだ。
変わらない笑顔、私はそれを守る為に頑張っていこうと感じた。
これからは花咲ジジイとなり
枯れ木に花を咲かせましょう…。
本当は枯れてない
妻と言う名の花に…。
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