ココロヨミ
「空! あれが観覧車だ!」

「いや、見りゃ分かるだろ」

 巨大な車輪のようにも見えるそれは、幾多もの人を乗せ、優雅にゆっくりと回転していた。

 本日晴天。雲はまばら。気温も上がり、遅めの夏模様となるでしょう。

「むぅ。お前は観覧車で気分が高揚せぬのか……まったく、最近の男は廻るロマンが分かっておらんな、ロ・マ・ンが」

「どんなロマンだ!」

 年下のガキにロマンを語られてしまった。それにお前は女だろうが。

「お!空、あれは何だ?」
 観覧車へのロマンを理解できないまま夜魅の指差す先を見れば、白馬やカボチャなんかが一緒くたになって回転していた。

「うん?メリーゴーラウンドだろ?もしかして知らないのか?」

「私は生まれて初めて『遊園地』という所に来たのだぞ?」

 そう言って夜魅は口を尖らせた。

「メリーさんなど知らん」
 残念ながら回る羊はいないみたいだが。

「でも観覧車は知ってたろ?」

「観覧車だけは、孤児院にあった雑誌に載っておったのだ。それより空! 早くあの『めりー・ごー・かーと』? とやらに乗るぞ。廻るロマンだ!」

「惜しいがラウンドな、ラウンド。確かに読点を増やして区切って読めばめっちゃ不思議だが……って、またロマンかよ」

「空、早く早く早く!」

 目を輝かせて桐原の手を引く少女は、精一杯『今』を楽しんでいた。


 過去の傷痕も

 未来への不安も

 今、この時だけは―――。


「しょーがねーな。付き合ってやる。にしても、俺がメリーゴーラウンドなんていったい何年ぶりだよ」

「フフン♪ それでよい。私はあの白い馬の背に乗りたい」

 夜魅は一番立派そうな白馬を指差して桐原を見ている。

「じゃあ俺は、その後ろの―――」

「たわけ! 馬車などダメだ。お前は私の横の黒い馬に乗るのだぞ!」

「えー」

 久しぶりに楽しい平日になりそうな予感だった。
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