ココロヨミ
「……お母さん」

少女はもう一度呟いた。間違いなく夜魅をじぃっと見つめながら。


「よ、夜魅、お前……その歳で……」

「ごごご誤解するな!私の子供な訳ないだろうが!」

首と手を本気でブンブン振っている夜魅(動揺し過ぎだろ!)は置いといて、桐原は少女に話し掛けた。


桐原が人間恐怖症でも、相手が子供なら症状は比較的安全圏レベルだ。


「君、迷子かな?本物のお母さんは?」

「……」


睨まれた。なぜ!?


「……夜魅さん、お願いします」

しょうがない、バトンタッチだ。


「お主、本当の母親はどうしたのだ?」

「お母さん……ひっぐ……急に……いなぐなっちゃったぁ……」


少女はちっちゃな顔をくしゃくしゃにして、今にも泣き出しそうだ。

俺、こういう子の対処法はさっぱりなのに……。


「ふむ。どうやら、母親は未知の宇宙人に拉致されてしまったようだな」

「いや、普通にこの子が迷子なだけだろ……」


「お母さん……う……うわあぁぁぁん!」

「わっ!」


少女はついに耳を塞ぎたくなる程の大声で泣き出した。


「わあぁぁん!」


「こら、空!こんな小さな子をいじめるでない!」

「いや、とどめを刺したはどう考えても夜魅だろ!」


夜魅は泣きじゃくる少女を、優しく抱きしめるように引き寄せる。

困り顔の夜魅をよそに、ぬいぐるみの熊をギュッと抱きしめながら、少女は大粒の涙を流し続けるのだった。
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