ココロヨミ
『で?』

電話越しにブルドッグの、いかにも怒っていそうないかつい顔が浮かんでくる。

『雨に打たれて、放っておいたら風邪をひいたと?』

「まあ……そうなりますね」

『たるんどる!!』

プツッ!ツーツー……


「あらら、ッ!ゴホゴホッ!うぅ……」

「『たるんどる』ときたか。ふむ、まさにその通りではないか?」

いつの間にか夜魅がそばに来て、この世の中で最も面白いものを見るような目つきで桐原を見ている。


「夜魅……ゴホッ!こんな時くらい“読まない”でいられないのか?」

「ブルドッグの怒鳴り声が大きすぎて、読まなくとも電話の内容が筒抜けだ、たわけ」



風邪でもひかれてはまずいと、夜魅に先にシャワーを浴びさせた。

その間着替えもせずに(か弱い女の子を抱き締めた事に後から気づき、ショックで思考停止してしまって)放心していたのだから、当たり前といえば当たり前か。

結局38,5℃の熱でダウン。会社も休み。ピンピンしている夜魅が看病にあたる事に。



その夜魅はといえば、あの最初に着ていた和風の服にエプロン姿といった格好で、台所で粥(かゆ)を作っている。


雨が軒を叩く小気味よい音を聞きながら、桐原は昨夜の一連の事を思い出していた。

顔が熱い。

これは熱のせいだろうか?
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