ココロヨミ
「そういえばさっきの歌だが……」

ゆっくりと桐原にお粥を食べさせながら、夜魅は尋ねた。

「ああ、小さい頃母さんが好きだった曲なんだ。あまりにも毎日毎日口ずさんでいたからな、全部覚えちまった」


曲名は忘れたけどな、と桐原は笑う。


「英語の曲だろう?歌詞の意味は分かるのか?」

「んーまぁ大体だけどな。確か……戦争で離れ離れになっていた恋人同士が、引かれ合うようにして丘の上で再び出会う……ってような意味だったな」

ほぉーと感心しながら夜魅がお粥の入った器を置く。

再び桐原の方を見たつぶらな瞳は、キラキラと期待で輝いているようだった。


「なあ空、もう一度、今度はちゃんと歌ってはくれんかの?」

「もう一度?ちゃんと?さっきのは口ずさんでただけだからいいとしても、今日は風邪で喉が痛いし、酷い声に―――」

「頼む」


本当に桐原は頼みに弱い。というよりも押しに弱い。

「……もう一回だけな」


英語で歌いながら、心の中で日本語に訳した歌詞を、夜魅に送ってくる。

本当に、完璧にそらで覚えているらしかった。


夜魅は目をつむると、桐原の歌に合わせて静かに首を揺らして、歌詞を噛み締める。


「〜♪」

優しいメロディが無骨な雨音のパーカッションに花を添える。


(ほう、のどが痛いと言っていた割には、意外に綺麗な声で歌うのだな)


なめらかな歌声と桐原の心が思い浮かべる言葉が、優雅に流れる旋律となって夜魅の体を隅々まで包む。


「〜♪♪〜〜♪」


(『あの丘で、いつかまた愛するあなたに出会えるかしら』か……)

桐原の歌は、遠い異国の丘に彼女を連れて行った。
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