ココロヨミ
なめらかな歌声と桐原の心が思い浮かべる言葉が、優雅に流れる旋律となって夜魅の体を包み込む。


「〜♪♪〜〜♪」


(『あの丘で、いつかまた愛するあなたに出会えるかしら』か……)

桐原の歌は、遠い異国の丘に彼女を連れて行った。



澄み渡った空には一片の曇りもなく、眼下には、見渡す限りの緑の絨毯が敷き詰められている。

彼女が立つのは、そこだけ他よりも小高く盛り上がった場所。

その中心に一本だけ青々と茂る常葉樹の大木。

この木の根元で、あの日私たちは約束の契りをかわした。

ここで待っていれば、いつかきっとまた会える。

ほら、丘を上る足音に振り返れば―――。



(夜魅)


「えっ?」


突然の名前を呼ぶ声が、夜魅を現実に引き戻す。


「〜〜♪」


桐原は両目を閉じて静かに歌を歌っている。

どうやら無意識のうちに、心が私を呼んでいるらしい。


(夜魅)


また、呼ばれた。

その呼びかける寂しげな声に、思わず夜魅も心の中で返す。


(ここにいるぞ)

(俺はもうお前を離さない)


「なあぁっ!?」

思わず口に出していた。

みるみるうちに夜魅の白い肌が赤面していく。

しかし桐原は微動だにせず、静かに、静かに英語で綴られた歌を歌い続ける。


(約束だから)

桐原は最後にそう言った。


『愛し君よ――もう――離さない――』
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