ココロヨミ
危うくお粥の器が宙を舞うところだった。
「な、な、なっ!?」
夜魅は慎重かつ大胆に器を脇に置くと、真っ赤になっているのを隠すように、エプロンを引き上げて半分だけ顔を覆う。
一方桐原は、歌い終わった途端にピクリとも動かなくなっていた。
交信もぷっつりと途絶えている。
「そ……ら?」
恐る恐る右手を桐原の顔に近づける。
さっきの今だ、自分の発言に動揺しているのかも知れない。
そっと頬に触れると、その熱が夜魅の小さな手のひらに伝わってくる。
(熱い……)
と、不意に桐原の体が横倒れに倒れ込んできた。
「わっ!」
とっさの事に対応しきれずドサリと一緒に倒れると、桐原に覆い被さられる形となってしまった。
「ど、どういうつもりだ!そんないきなり包容なんぞしおって!そういう事は互いの心の準備ができて……か……ら?」
上になった桐原からはスースーと規則正しい寝息が聞こえてくる。
「ふぅ。なんじゃ、寝ておったのか……」
ならばさっきの、桐原のコクハクともとれる胸中は、残念ながら寝言の分類か。
「はっ!いかんいかん。何が“残念”じゃ。何を変な期待しとる、私は」
夜魅は桐原を起こさないようゆっくり体を離し、気遣いながら再び布団に寝かせたが、そこでふと自分の異変に気がついた。
桐原 空の前では、鼓動が風のように速くなり、胸がはちきれんばかりに苦しくなった。
桐原 空の前では、人を遠ざけ続ける冷たい仮面を外すことができた。
桐原 空の前では、私は
平凡な『人』でいられる
「ああそうか……」
心地良さそうに眠る桐原を見下ろしながら、夜魅は呟く。
「好きは―――私の方か」
「な、な、なっ!?」
夜魅は慎重かつ大胆に器を脇に置くと、真っ赤になっているのを隠すように、エプロンを引き上げて半分だけ顔を覆う。
一方桐原は、歌い終わった途端にピクリとも動かなくなっていた。
交信もぷっつりと途絶えている。
「そ……ら?」
恐る恐る右手を桐原の顔に近づける。
さっきの今だ、自分の発言に動揺しているのかも知れない。
そっと頬に触れると、その熱が夜魅の小さな手のひらに伝わってくる。
(熱い……)
と、不意に桐原の体が横倒れに倒れ込んできた。
「わっ!」
とっさの事に対応しきれずドサリと一緒に倒れると、桐原に覆い被さられる形となってしまった。
「ど、どういうつもりだ!そんないきなり包容なんぞしおって!そういう事は互いの心の準備ができて……か……ら?」
上になった桐原からはスースーと規則正しい寝息が聞こえてくる。
「ふぅ。なんじゃ、寝ておったのか……」
ならばさっきの、桐原のコクハクともとれる胸中は、残念ながら寝言の分類か。
「はっ!いかんいかん。何が“残念”じゃ。何を変な期待しとる、私は」
夜魅は桐原を起こさないようゆっくり体を離し、気遣いながら再び布団に寝かせたが、そこでふと自分の異変に気がついた。
桐原 空の前では、鼓動が風のように速くなり、胸がはちきれんばかりに苦しくなった。
桐原 空の前では、人を遠ざけ続ける冷たい仮面を外すことができた。
桐原 空の前では、私は
平凡な『人』でいられる
「ああそうか……」
心地良さそうに眠る桐原を見下ろしながら、夜魅は呟く。
「好きは―――私の方か」