ココロヨミ
「はぁっ!はぁっ!」


どれだけ不格好に走ったろう?

草履にも似た履き物のせいで足首はズキズキ痛み、指先の皮がめくれあがるような感覚に顔がしかむ。


そして追い討ちをかけるように、絶対に走る為には作られていない着物のような服が、夜魅の体力を大幅に削っていく。

後ろを振り返る余裕は無いが、空耳か、背後から追いかけてくる足音が聞こえる気がする。私を追う狩人(ハンター)が、今まさに肩を掴もうとしているところかもしれない。


「あっ!」

視界が急にブレたかと思った次の瞬間には、ズシャッと音を立ててアスファルトの堅い地面に横たわっていた。

とっさについた両手の平から紅い紅い血が伝う。

体のを走る痛みを噛み締めてゆっくり立ち上がると、履き物の鼻緒が切れてしまっていた。

膝と爪先も見たくないほどに擦りむいている。


周りを見渡せば、通りすがらじろじろと奇妙な服を着て擦り傷だらけの少女をみる視線、視線、視線。

その全てが自分を追い詰める追跡者に見え、幻想までが夜魅を追い詰める。


差し詰め私は、狩られる野ウサギといったところか……夜魅はそんな事を思いながら、先程より遥かに痛む足を前へ前へと一歩ずつ押し出す。

曇りの空は、急速にその陰りを増す。



狼は、すぐ手の届く所まで迫っているだろう。
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