ココロヨミ
「くそっ!どこだ夜魅、夜魅っ!」


思いつく薬局を4、5件命懸けで(なぜどこの店も店員が女なんだ!)まわってみたところ、夜魅が風邪薬を買ったらしい店が見つかった。

しどろもどろそこの店員から話を聞き出すと、彼女は30分も前に出て行ったらしい。


……この世の全てを手に入れたかのようなにやけ顔で。


しかし普通に歩いたとしても10分。彼女の歩幅でも15分あれば桐原のアパートに着く距離だ。

ひょっとすると、ひょっとするかもしれない。


「はあはあ……う!ゴホッゴホッ!」

かなり咳が酷くなってきた。

体が重い。頭が痛い。


そこまでいってようやく自分がまだ風邪の身である事を思い出した。


自分と同じ名前のパレットからは、またすぐにでにも水色絵の具が降ってくるだろう。

雨に打たれてこれ以上風邪が悪化したらまずい。夜魅を捜すどころじゃなくなっちまう!


立ち止まり息を整えていると、買い物袋を片手に下げながら大声で井戸端会議をしているおばさんの会話が聞こえてきた。


「私ったら、石川議員の乗った車を見たのよ〜?」

「やーねー、私なんて視線があったんだから。きゃー!あの渋さ、素敵よねぇ」


(追っかけか……ははっ……若いっすねぇ……)

少なくとも今の桐原よりは若々しい。

厚化粧がなんのその、だ。


(ゴホッ!待てよ、何か思い出しそうな……)

おばさんたちは益々ヒートアップした口調で続ける。

「そういえば、見つかったのかしらね?探し物」

「見つかったんじゃないかしら。さっきね、軍人みたいなごーーっつい人と話した後に、たーーっかそうな黒塗りの車でどこかに行ったから」


ゴホッ!?

(思い出した!『石川 厳十郎左右衛門之助』……ヤクザとも繋がりがあるって噂されてる大物政治家じゃないか!)

噂では目的の為なら何でもする悪魔のような男と言われている。また悪徳名家の例に漏れず、金に糸目はつけないで都合の悪いことは全てもみ消すとも……。
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