ココロヨミ
ザアァァ……

さっきまで曇りでなんとか耐えていた空が遂に臨界点に達し、音を立てて大粒の雨が降り出した。


路地裏のこんなゴミだめのような場所にさえ《平等》に雨は降るというのに……なぜ……


「んー!む゛ーー!」

(止めろ!助け……誰か……!)


強靭な男の手でがっちりと腕を掴まれ、口を塞がれて説き伏せられしまっては、抵抗どころか息をするのすらままならない。

夜魅はヤクザ風の男に二人掛かりで追い立てられ、気がつけば手も足も出ないこんな状態になっていた。


一瞬でもいい、隙ができれば全力の大声で叫び、誰か人を呼べるかもしれない

しかし、ここは人や車がせわしなく行き交う騒がしい歓楽街の路地裏。おまけにこの天の悪戯……人一人叫んだところで何も変わらない。


神がいるとしたら、とことん嫌われているらしかった。


「いい加減、暴れてんじゃねぇよ」

「ぎ゛っ!……ぷはっ……はっ……痛っ……!!」


抑えつけるのが面倒になったのか、男の一人が夜魅の口を塞いでいた方の手で頬をしたたかに殴りつけた。

息はできるようになったものの、抵抗する気力は一度に持って行かれてしまっていた。

顎のラインに沿って赤い血が一筋、まだ生きている証を示すように流れる。


「おいおい、私の獲物をあまり痛めつけないでもらおうか?」


体が凍りついた気がした。

口は塞がれずとも、文字通り息が詰まりそうになった。


《鬼》だ。
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