ココロヨミ
「ああ、石川さん」

そこには言わずと知れた大物政治家が、ひょろりとした黒服・黒縁眼鏡の秘書らしき男に傘をささせて立っていた。


「いや、やっと捕まえましたよ。何しろこんな格好してるくせにちょこまかちょこまかと……」

「御託はいい」


そのあまりにも冷たい響きに、その筋であろう大の男二人ですら表情が固くなる。


「さあ、その顔を上げてよく見せてくれ?」

男の一人が夜魅の濡れた長い黒髪を乱暴に掴んで、ぐいと顔を上げさせた。

夜魅の、怯えきった薄いエメラルドグリーンの右目を見ると、石川はニヤリ。吐き気がするほどに下卑た笑みを浮かべた。


「ふむ。今度は逃げる勇気も起きんように徹底的に“調教”せんとな」


夜魅の表情が、今度こそはっきりと凍りついた。

漆黒の左目から一筋の雫が頬を零れたが、降りしきる雨に混ざり溶けてしまった。

いや、元からそんなものは無かったのかもしれない。


夜魅はがくりと顔を伏せ、これからの身の上を想像し、絶望し、いっそ発狂でもしたら解放されるのだろうかと思いながらうなだれる。

(空……やはり私に、居場所などというものは存在しないようだ―――)



「あぁ、ごちゃごちゃうるせぇよ」
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