ココロヨミ
《今夜が峠です》


まさかそんな使い古されたセリフを言い渡されるとは思わなかった。

救急医療病院に運び込まれた時には既に出血多量で意識はなく、すぐさま緊急オペが行われた。

手術は成功とも失敗とも言えず依然重篤状態。ICUに移送されて後は本人の回復力と、頼りたくはないが運しだいらしい。

医者から『ご家族の方ですか?』と聞かれたとき、何も答えられない自分に嫌悪した。

なんだ、結局俺は夜魅の何でもないじゃないか。

保護者でもなければ血の繋がった家族でもない。

大切な彼女だと伝えたくとも、目に見える証は何もない。


桐原は、冷たい夜魅の手を握っている事しか出来なかった自分に苛立った。


(何故もっと早く行ってやれなかった?)


(何故あんな事になると予測出来なかった?)


(何故……?)


終わることのない自問自答を繰り返し、集中治療室で眠る夜魅を見る。
生死の境をさ迷う彼女に桐原は何も出来ない。


一人ぼっち―――。


また俺のせいで大切な人を失うのか?

桐原は、夜魅の手を握る両手に力を込めた。


「嫌だ……頼む。俺をもう一人にしないでくれ……」



(夜魅―――)
< 71 / 75 >

この作品をシェア

pagetop