ジュリエットなんて呼ばないで
優士が行ったあと、そこは夕日の光で赤く染まっていた。

私は海から出て、岩に腰をかける。


「……海草の服着てるんだけどなー」


海草の服といっても、胸に巻き付けてるだけ。

いつもは優士が言ったとおり、丸出しなんだけどね。
流石に男と話すときくらいは隠しておいた。でもやっぱり恥ずかしいから岩に隠れてたけど。


「いいなー、人間は」


人間は走れる。それに泳げる。
私達にないものを持っている。

人魚のなかでは、人間と話をしてはいけない。……という決まりはない。

もしも写真で撮られても、住んでいる場所を移動すれば見つからなくなるし。

だから別に、人間と話せない訳じゃなかった。




「まさかあんなにも驚かないとは思わなかったけどね……」


普通の人は悲鳴をあげるか写真で撮るかのどっちか。

なのに優士ときたら……。


私が現れても見向きもせずに『読書の邪魔すんな』って。


「……変なやつ」



興味のないものには全然無関心で、興味がでたらすごく子供みたいで。




「…………」


優士のことを考えていると、あの本を思い出した。


ジュリエット。
私の名前のはずなのに、どうしてか別人に思えてくる。


そういえば、優士……。




「私のこと、名前で読んでくれなかったな……」
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