ジュリエットなんて呼ばないで
次の日になると、優士はまたあの場所にいた。


「よお、魚類」

「今日をお前の命日にしてやろうか」


失礼にもほどがあるだろ。


「お前はいちいち脅し方が怖いんだよ」

「あんたが悪いんでしょ」


優士は慣れた手つきで鞄を置き、その場に寝転がった。


「あんたアレなの?ニートなの?昼まっからゴロゴロ暇そうに……」

「お前は俺の母ちゃんかよ。学校が夏休みだから暇なの」


夏休み?


「夏休みってなに」

「……え」


えっ、なに。そんなに驚かなくてもいいじゃん。


「まさか、人魚は学校にいかないのか」

「ガッコウ?」

「……羨ましい」

「だから何よ!その夏休みとガッコウって!」


羨ましいって……。もしかして恐ろしいことなのかな?


「いらん知識を無理矢理子供に押し付ける所なんだ、学校は」

お、押し付ける!?


「それに、教師という怖いやつからの命令に従わないと罰を受ける」

命令!?


「あんた、そんな場所に行ってるの?すごいわね」

「強制的なんだよ。夏休みは学校が休める期間なんだ」

「へぇー、大変だね」


私は昨日みたいに、下半身を海に沈めたまま、岩から顔を出している状態。
すると、優士がじーっとこっちを見てきた。


「なに?」

「やっぱ気になる。ブラジャーしてんの?」

「お前はそれしか頭にないのか、このスケベ」


まったく……。


でも大丈夫。
今日は海草じゃないからね。


「こんな感じ」

「……布?」


そう、布。

人魚でも布はよく使う。服用じゃないけど。

だからその布を借りてきたってわけ。まあ羽織ってるだけだけど。

見た目は分厚くて、桃色。そして質的に水をよく吸い込むから重い。

「いつもそれ?」

「……いや、今日だけ」

「いつもは何」


言っていいのか、言うべきなのか。
てかコイツも何訊いてんだよ、デリカシー持てよ。




「……ま、丸出し…です」


聞こえるか聞こえないかくらいの音量で言うと、優士はうつむいて黙ってしまった。

どうしたのかな、と思って顔を覗きこむ。


「丸出しって……引くわ」


ブチッ

私の中で何かがキレた。



「お前が言ったんだろおおおおおおおお!」

「うわあああああ!」


――ドッパーン!


私は怒りのままに、優士を海に引きずり込んだ。
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