ジュリエットなんて呼ばないで
海に引きずり込んだあと、私はかなりスカッとしていた。今まで溜まっていた怒りが爆発したみたい。

「あっはは、ざまぁみろ!この変態野郎!」

大声で高らかに笑っていると、優士が沈んだ場所が静かになった。

「……え?」

ちょっと……、嘘。
あれくらい泳げるよね?

足だってつく場所だよ?


しかし優士はいっこうに陸に上がってこない。

これはヤバイ。


私は急いで海に潜り、案の定溺れていた優士を水中から出した。


「ちょ、大丈夫!?」


引き上げた優士は、息を吹き返し、口の中に溜まっていた水を吐き出した。

「ブーッ!ゲホッゲホ…」

「うわ汚っ」

「ッ、誰のせいだよ!」


ゼーハー言いながら怒る優士。うーん、悪いことしたな。


「だって、まさか泳げないなんて知らなかったんだもん」


意外すぎる。見た目からして何でもできそうなヤツなのに……。
というか、その歳で泳げないってどうなの?


「プッ……」

やばい笑っちゃった。


「……笑うことないだろ、人の苦手を…」

あ、すねた。




なんだか、最初は嫌なやつだと思ったけど(今も思ってるけど)、子供っぽいとことかあって面白いやつ。


「……ねえねえ」

「あン?」

「人間の世界色々教えてよ」

「お前殺しかけた相手によく言えるな」


なんだか言いながら、私が質問したらちゃんと答えてくれる。
根はいいヤツなんだろうな、きっと。

「聞いてんのかよ、魚類」

前言撤回、カス野郎でした。



だけど、そんな悪態にも慣れてきて受け流せるようになった。

「ハイハイ、聞いてます」

「嘘つけ、本物の魚みたいな顔してたクセに」

「どういう意味だ」

「ブス」


流石の私でもその言葉にはぶちギレてしまい、また海にでも引きずり込んでやろうと手を伸ばした。


「死ねえええええ!」

「おっと!その手には乗らねえぜ!」


よ、避けられた……だと!?


「フン、所詮お前は魚類。海からは出られまい」

めっちゃドヤ顔して私を見下ろす。


しかし。

「人魚姫をなめんなあああああ!」

海から出て、自慢の尾びれを思いきり振ってやった。

「のわっ!」

油断していた優士は尾びれに足を取られ、すっ転んだ。
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