ジュリエットなんて呼ばないで
無理して岩に上がったせいか、疲れた。というか、岩の表面と擦れて痛い。

「痛えな、クソ」

打ったらしい頭を抱え、優士はその場から起き上がった。

やばい!仕返しされないよう早く海に戻らなければ!

だが起き上がろうとしても、やはり水中とは勝手が違うのか、下半身が上手く動かない。

そして狭い場所だから、無駄にでかい尾びれが邪魔だ……!

「うっ、く……!」

海まで数センチ。水に手を伸ばした。

その時、後ろから笑い声が。


「はははは!おまっ、何ソレ、マグロ?取れたてのマグロですか!?」


……殺意が、殺意が湧いてきたんですけど。


「うっさいのよ!このカナヅチ!溺死しろ!」

「なんだとマグロ!露出狂!バーカバーカ!」


なんとも低レベルな言い争いをし始める私達。

ついでに、私は未だに起き上がれてません。




――ブワッ!


「あっ、やば!」


突然風が吹き、羽織っていたびしょびしょの布が飛ばされてしまった。
水を含んでいてかなり重かったが、風の方が強かったらしく、遠くまで飛んでしまった。


「あーぁ、どっか行っちゃった」


借り物だったのに。


ふと、大人しいなと思って優士を見てみる。


「……なにしてんの」


優士は私に背を向けたまま直立に立っていた。微動だにしない。

「ほら」

体は動かさず、ただ腕だけを私の方に向ける。その手には、優士の上着があった。


「ほぇ?」

「だから!何か着ろって!俺男だぞ!」

「あ、そ、そうか」


しまった。いつも女しかいないから、忘れてた。

優士が異性だと思うと、段々恥ずかしくなって体が火照った。


上着を受け取り、羽織ると、不思議な感覚に襲われた。
濡れてない、温かい布。優士の温もりが、上着からじかに伝わってくる。

あぁ、どうしよう。なんだかドキドキしちゃう。

なにこれ、病気?


「……」

「……」


二人とも黙ってしまった。


私は静かに岩に腰掛け、下半身だけを海に入れた。
優士と話さなくなると、簡単に起き上がることができた。


優士が何をしているのか気になったけど、後ろにいるから分からない。振り向く勇気もない。


……あれ、なんだろう。


私、優士のことしか考えられない。
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