涙空
「行くよ」
「え、私も?」
「当たり前」
そう言い切ると、郁也はまた私の手首を掴んだ。
もう一度空教室の時計を見れば、さっきよりも長針は進んでいて。
静かな廊下で、郁也は私の手首を引いて歩き出してしまった。
***
「あれ、先生出張?」
「…」
階段を降りて保健室まで行くと、そこに先生の姿は無かった。
ぐるりと室内を見渡すと視界に入った伝言用のボードがあった。
「あ、書いてある」
今日の日付の隣に書かれた、『出張』の二文字。
じゃあ先生は出張でいないんだ。そんなことを思っていた。
「…郁也、次はなにしてんの?」
ひとりで室内を見渡していた私。その間に、郁也はまた私のハンカチを濡らしていた。