涙空
▼曖昧
――――――…
『佳奈、おいで』
誰かに名前を呼ばれる。
『佳奈、おいで』
"誰か"なんて、嫌でもわかっているのに。だけど手を伸ばしても、掴めるのは空虚だけだった。
するりと、それは私から離れていく。
『…佳奈は、優しいもんね』
段々と視界が赤色に染まっていく。赤、赤、赤。
『…ありがとう』
ぎりぎりと歯軋りする音が聞こえた。誰が歯軋りをしているのだろう。
…なにも、掴めない。
再度手を伸ばしたとき、微かに見えたのは――――、
「―――――っ!」
―――――かっと開かれた自身の瞳。視界に入るのは、自室の真っ白な天井。
……夢、か。
幻想世界は途中で、びりびりと破られた。
荒い息遣いと、むかむかする吐き気の中で目が覚めたからだ。