涙空





     『佳奈』

  『佳奈』
   『おいで』

『こっちに、おいで』


『佳奈、』 
      『おいで』




眉間に皴を寄せた。嫌だな、気持ちが悪い。

郁也は私をちらりと視界に入れてから「ない」ぽたりと言葉をアスファルトに落とした。




「…ないんだ」

「見ても覚えてない。なに?夢見たの?」

「あー…まあ」




曖昧に濁した返答に、郁也は特になにも言ってこない。

放課後の帰り道は、やっぱり寂しげな気がした。



―――それが、広がるオレンジ色の空の所為なのかはわからないけど。



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