涙空



「え」がたんと、椅子から足が浮く。引っ張られるようにして、立ち上がる。




「転ばれたら困るから」

「か、鞄」

「転ばれたら困るから。二回も言わせんな」

「す、すいません」




すっと伸ばされた手に、鞄を取り上げられる。

片手に二人分の鞄を持った郁也は、そのまま私の手を引いて歩き出した。



どく、どく、どく。
さっきとは違った高鳴りを示す鼓動に、唇を噛み締めた。

…どうして郁也は、こんなにも優しいのだろう。思わず泣きそうになる。




――――ふと、視線を郁也の背中から外して、室内を見渡した。

放課後になった教室の中は、いつものような、がやがやとした騒がしさがある。




「……怜香」




ぽつりと、名前を口に出した。



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