涙空



それは紛れも無い事実。だから、なにかを強く言い返すことは出来ない。

なにも言い返さないあたしを見てから、また夏樹が言った。




「全部を知る必要はないと思うけど、俺は」

「…、」

「なら俺達は?って、なるだろ」

「え」




顔を上げれば、寂しげな夏樹の表情。




「怜香は俺の全部知ってる?」

「…知らない」

「俺だって、怜香の知らない部分は沢山ある」

「、」




何故か胸を痛めるその言葉。でも一番あたしの胸を痛めるのは、

夏樹の、寂しさに歪む表情だと思った。




「…夏樹」

「別に、全部を知ろうとは思ってないよ」

「、」




するりと、手首に回された指先。

熱を持つ自身の手首に、すっと視線を下ろした。



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