涙空
「言ったろ。怜香は考え事してるとき、唇噛むんだって」
「…、」
「血出るよ」
「、」
夏樹の細い指先が、すっとあたしの唇をなぞる。
ぞくりと、背筋を寒気が襲う。目を見開いた。
「怜香、無理すんなよ」
「…してないって」
「…野崎には郁也がいんじゃん。それだけじゃ安心出来ない?」
「……」
確かに、佳奈の隣には藤崎がいる。いてくれてるけど。
噛んでいた唇には、今さっき夏樹の指先によってストップをかけられた。
ひりひりと、切なさを交えた痛みが唇に残る。
「…佳奈は、まだ藤崎に話してないから」