涙空
振り返った郁也は、そのまま私に近付いて、屈んだ。
なに?疑問を露にする私の唇に、指を寄せた。
「強く噛み過ぎだろ。血出てる」
「え」
うううう、嘘だ。嘘でしょ?どれだけ噛み締めてたの、私。
――――ハ、ハンカチ。
制服のスカートのポケットの中に手を突っ込んでハンカチを取り出す。
いつか郁也が私の目元を拭った、花柄のハンカチだった。
「…そんな酷い?」
じっと私を見つめる郁也に一言問い掛ける。
郁也は私の問い掛けに対して、はやく吹けと言うかのように、私の手元にあるハンカチに視線を滑らせた。