涙空
ぱっと私から視線を反らしたかと思えば、
「…今度、どこか出掛けようか。二人で」
「…お母さん、なにかあったの?」
「…なにもないよ?」
「…」
じゃあなんで、私に背中を向けてるの?
そう聞こうと喉まで言葉を送ろうとした。でもそれを制したのはお母さんだった。
「…なにもないよ。佳奈が気にするようなことじゃないから」
「…」
「…あたしが、考えすぎてただけ」
「…」
また、同じようにその表情を繰り返す。
―――ばたんと閉められた部屋の扉に、手を伸ばすことは出来なかった。