涙空
「あれ、郁也一緒に帰るの?」
「一人で帰りたいならどうぞ」
「いやいやいや」
郁也を見上げる。いやいや、そんなこと言われても。
というより、今何時だろう。駅まで歩くのに。気が付けば日が伸びた夏場だというのに薄暗くなっていて。
空はいつにも増して、寂しげな色をしながら広がっていた。
「…お、お供させてください」
「野崎、電車?」
「郁也も電車だよね」
「…俺、人込み嫌い」
「人込みが好きな人は少ないと思うよ」
ぽつりと返す。…やっぱり郁也は掴めないな。
……って、
「ちょ、置いていく気駄々漏れですけど郁也!」
「遅い」
「怒んないでよ」
なんとか、ぴたりと止まっていた足を動かした。
空の色は、もう視界には入らなかった。