涙空
「そっか。好きになってくれたら嬉しいんだけどね」
「…弾くの?」
「飽きちゃった?何回も聴いてるもんね。佳奈」
あの日、あの幼稚園の教室で聴いたピアノ。
あのとき弾いた曲を、お母さんは気が向けば私に聴かせてくれていた。
弾くことは出来ないけど曲調も覚えてしまった。
お母さんが楽譜を一瞥する刹那は、すぐに脳裏に思い浮かべることが出来る。
聴き慣れたから、だろうか。聴き慣れたのかもしれないな。
―――――でも。
「飽きないよ」