涙空
「不器用なんてもんじゃないよ。料理も碌(ろく)に出来ないし」
「はは。あたしも出来なかったよ、佳奈くらいのときは。料理も裁縫も出来なかった」
「…遺伝だよね」
「仕方ないじゃん。嫌そうな顔しないでよ」
あからさまな私の表情にお母さんが言う。
遺伝はどうしようもないけど。それはわかってるんだけどさ。
料理も出来なければ、勉強も運動も出来ない、とか。
「私って人に劣る部分ばっかりだよね」
「そんなことないよ。…ピアノ、やってもいいと思うんだけどなあ」
「遠慮しとくよ」
私には、このグランドピアノは似合わない。
お母さんが弾くから、指先で音を奏でるから、このグランドピアノは輝きを増すのであって。
――――私じゃ、駄目なんだよ。