涙空
甘い、なあ。
じわりじわり、甘さが口内でどんどん広がっていく。
また一口、二口と食べていく。そんな私を見ながら、水を口にしたお母さんが口をついた。
「…そろそろ、ここ出ようか」
「え?」
なんだか、落ち着きがない。どこか焦るような口ぶりに、
「…なにか用事でもあった?」そう問い掛けたけど、ふるふるとかぶりを振る。違うらしい。
「…夢を見ると、いつも日暮れの時だから」
「…まだ日暮れじゃないけど、」
「だからだよ。はやく帰ろう」
――――【あのとき】と同じ時間帯には、あの交差点を通りたくない。