涙空
そうお母さんは言った。がたんと椅子から立ち上がってしまう。
それを聞いてもフォークから手が放せないほど、チーズケーキには執着は湧いてない。私だって、それは嫌だと思う。
「…日暮れだったの?…夢の中の、話」
がたん、椅子が揺れる。こくり、ゆっくりと頷くお母さんに「…そっか」とだけ返す。
「…お母さん、帰ろう。日暮れの前に」
伝票を掴んでから店内の窓の近くにあった時計にゆるゆると視線を滑らせた。
…もう、四時か。
さあ帰ろう。お母さんの不安と私の不安を拭うためには、
―――日暮れの前に、あの家に帰らなきゃいけない。