涙空



表情は見えなかった。彼女が俯いてしまったからだ。

その声は、どこか悲しげに震えていた。…泣いてる?顔が見えないと、それさえも曖昧にしかわからない。

…泣いてるの?泣いてないの?わからないよ。



不安がそこら中に散乱するような空気だった。居心地は、はっきり言ってあまり良くない。




「…、」




信号がぱっと変わる。真っ赤な色に、変わる。

【渡るな】と、危険を知らせるそれは、なぜ赤なのだろう?黒でも白でもなければ、赤。


なんで赤なんだろう?
黒じゃ駄目なの?白じゃ駄目なの?

そんな疑問になんて目もくれず、信号機は未だに私達に【渡るな】の意思表示をしたまま。


だから、ぴたりと止まったままの自分の足。



< 295 / 418 >

この作品をシェア

pagetop