涙空
表情は見えなかった。彼女が俯いてしまったからだ。
その声は、どこか悲しげに震えていた。…泣いてる?顔が見えないと、それさえも曖昧にしかわからない。
…泣いてるの?泣いてないの?わからないよ。
不安がそこら中に散乱するような空気だった。居心地は、はっきり言ってあまり良くない。
「…、」
信号がぱっと変わる。真っ赤な色に、変わる。
【渡るな】と、危険を知らせるそれは、なぜ赤なのだろう?黒でも白でもなければ、赤。
なんで赤なんだろう?
黒じゃ駄目なの?白じゃ駄目なの?
そんな疑問になんて目もくれず、信号機は未だに私達に【渡るな】の意思表示をしたまま。
だから、ぴたりと止まったままの自分の足。