涙空
そこで、隣で携帯電話が鳴り響いた。
――――プルルルル、プルルルル、
初期設定のままの、静かな着信音だった。お母さんの携帯だった。お父さんからかな。
「お母さん、携帯、鳴ってるよ」
言いながらお母さんへと視線を向けた。
「あ、本当だ」お母さんが自身の携帯を開いて耳に当てた。
相手はお父さんだった。スピーカーフォンになっていたのか、こちらにまで届く声。
―――― そ っ と 近 づ く 不 穏 な 風 に 、 私 達 は 気 づ か な か っ た 。
『もしもし、由奈か?』
「佳音?あたしだけど…あれ?まだ仕事中じゃないの?」
『ああ、まだ仕事中』
「どうしたの?」