涙空
もし私がその道を選んだとして、あの人は喜んでくれるのだろうか。
きっとあの人が今ここにいてくれたら。
『佳奈が思った通りにやってみたらいいよ』
そんなふうに、背中を押してくれるのかもしれない。
でもそれは、私の憶測でしかない。…答えはわからないけど―――、
「――――幼稚園教諭をしてみたいんです」
そう、静寂に包まれた室内で担任に告げた。
始めて自分から口にした【自分の望む進路】。
そのときの担任の驚いた顔と、影が落とされていく校庭だけは、今でも瞼に焼き付いている。
きっと、この先忘れることはない。
このときの私にはまだ未来なんて予測も出来なくて。
自分に彼氏という存在が出来ることも、親友の苦しみも、
まだ何も知らなかった。
後々知るであろう現実には目を背けて、
担任に告げた言葉に後悔はないと膝の上で握りしめていた拳を少しだけ緩めたのだった。