涙空



そんなこと、無理なのはわかってるんだけど。




「…郁也、一緒に来てくれない?」




また、ぽつりと言った。

郁也に視線を向けたままそう言った。…私一人じゃなくて、二人が良かった。


お父さんは仕事が終わってから、きっと一人でお母さんに話しかけに行く筈だから。

私は一人であの静かな墓に行くことになる。




「…お母さんの墓、郁也行ったことないよね」

「…いつ?」

「え?」




次は郁也からの問い掛けだった。

思わず声を漏らす。
…郁也に聞かれると思わなかった。なんとなく、断られるかと思ってた。




「…明後日」

「わかった」

「…行ってくれるんだ」




頭上を烏が追い抜いて行った。

ざわざわと風が吹く。浚っていかれる髪を片手で押さえながら口を開く。

郁也はちらりと空を見上げると「…別に」小さく返事してから、また口をついた。




「…気まぐれ」



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