涙空
「…いや」
来る途中に花屋で買った花束を手に持ったまま、墓に語りかけていた自分に郁也が言った。
学校帰りにそのまま電車でここに来たから、二人して制服のままだ。
すこし長かったかもしれない。振り返った先に立っている郁也に、苦笑を零しながら言った。
「…長すぎって思ったんでしょ。めっちゃ顔に書いてあるよ」
「いや別に。話したいこと溜まってたなら仕方ないだろ」
「…そうだね」
この場所に、家族と親戚以外の二人で来たのは初めてだった。
ざああ、と風が吹く。
「…この花、綺麗。郁也センスいいね」
「え、佳奈に似合わせたわけじゃないけど」
「なんで私がナルシストみたいになってるのかが知りたいわ。私別に自分に似合ってるとか思ってないからね」
「ならいい」
「いやいや、私がよくないんだけど」
がさがさと音をたてて、大切な人が眠る墓に花束を置く。
花は全部、郁也に選んでもらった。残念ながら私にはセンスというものは無いからだ。
結果こんな綺麗な花束になったのだから、よしとしよう。
きっとお母さんも喜ぶだろうよ。郁也が選んでくれたんだから。