涙空
「…なんでって」
「親が定年退職するまで幼稚園教諭として働けなかった同情?」
「…違う」
「【園児】をすぐ傍でずっと見てたい興味?」
「…それも違う」
「…親と同じ【幼稚園の先生】の枠に入りたいから?」
「…違うよ、郁也」
そうじゃない。そんなことじゃない。
首を左右に振って、否定を表した。郁也はじっと私を見つめてくる。
そして一言。
「…俺は佳奈じゃないからわからない」
そう、言った。
淡々と、だけどどこか切なげに。郁也が私に向かって、そう言った。
「…え」
「佳奈になにが合ってるかなんて、俺が口走ったところでそれは助言になるわけじゃないだろ。佳奈がやりたいと思ったならそれでいいんじゃないのかよ」
「…、」
郁也の言葉は、さっき吹いた風よりも、私が漏らした弱音よりも、
比べものにならない程、強いものだった。
「…」
「…俺が当てにならないなら、母親に聞けば」
「…」
「…佳奈は自分にもう少し自信持ったほうがいいんじゃない。ナルシストにならない程度に」
「…郁也」